宮古 重茂沖でカレイ出船再開!
津波により大きな被害を受けた岩手県宮古市の重茂地区で、カレイ船が震災後はじめて出船した。自宅を流失し避難所生活を送りながらも、復興への第一歩を踏み出した船長。地区の期待も背負った出船の模様をレポートします。※2011年5月のレポート記事です。
震災後初めてのカレイの試し釣りに出船
大震災から2ヶ月。被災地の岩手、青森でも、一部の港で遊漁船が再開して、釣果情報が配信されるようになってきました。例年なら、岩手三陸は春カレイの釣果が伸びてくる時季。通っていた地区の遊漁船再開の情報を、心待ちにしている釣り人も多いことでしょう。
そんなところに、上州屋盛岡店スタッフの富澤さんから、「宮古、重茂地区での釣り船再開に向けて『さくら丸』さんが調査を兼ねてカレイ釣りで出船します。同行しませんか?」とのメール。さっそくつりえさマリンの丹野社長、新港店・和地店長を誘い、5月9日に重茂漁港に向かいました。
午前8時に重茂漁業協同組合前に到着。「さくら丸」木川信保船長に案内されて、重茂漁業協同組合の高坂菊太郎参事と面談。遊漁再開にあたっての注意点、要望などの話を伺いました。高坂参事から、「重茂は遊漁船が多く、これも地区の大切な収入になっているので、残っている釣り船が稼動することは復興へ踏み出す力になります。漁港内の施設、岸壁の損害は大きく、道路の状態も悪いです。まずは船長の指示に従って、安全な場所に駐車してください。重茂半島各所で復旧工事が行われているので、作業の妨げにならないように、そして安全第一を念頭に重茂に来て頂ければ、以前と変わらず釣り客は歓迎です。港を活気づけてください」と再開へ前向きな話を頂きました。
避難所になっている漁協施設内では50人ほどの方々が避難生活をしており、津波で家屋が流失した高坂参事、木川船長も、ここで寝食を共にしているとのこと。住人の方から、「仙台がら来たのすか?いっぱい釣って帰らいよ!」と声をかけていただき、甚大な被害を受けて不自由な生活を強いられているなかでも、我々釣り人を迎え入れてくれる重茂の人々の、温かな心づかいを改めて感じました。
漁協から港に向かっていくと、立派な家が建ち並んでいたはずの港前の集落が無くなっていました。建物の被害は甚大ですが、一名の方が亡くなったものの、日頃の避難訓練のおかげでほとんどの住民が無事に避難。「瓦礫の撤去は進んで、あとはどこに住居を建て直すか協議中」と木川船長。船長の指示で、工事の妨げにならない場所に駐車。船長の軽トラに乗せられて港へと向かいます。
河口の前には「勢運丸」(木川船長の従兄弟です)が係留され、船長、船体ともに無事を確認しました。奥の堤防の「幸漁丸」も健在。荷揚げ場脇のトイレは流失していて、屋根の上には船外機船が3隻打ち上げられています。荷揚げ場前の岸壁から、共に繋留された「八幡丸」を跨いで「さくら丸」に荷物を手分けして積み込み、午前9時に出船しました。
閉伊崎のポイントで震災後初投入
強めの西風ですがうねりは低く、風をかわす閉伊崎方向に走っていきます。もう濁りは無く、水色は良い感じ。竿を出す前に富澤さんが用意してきた花と御神酒を海に注ぎ入れ、犠牲者の冥福を祈りました。
ゆっくり潮まわりして投入の合図。3本バリ仕掛けにオモリ40号で投入します。私の今回のタックルは今季ニューリリースのシマノ幻舟カレイ180PT。手感度抜群のチューブラー穂先の竿に、バイオクラフトクイックファイヤー300Fの組み合わせ。深場を小突きで誘う釣りには、高感度で操作性の良い竿と、軽量なリールの組み合わせが、誘いの負担を減らし、深場からの微妙な魚信を取って、「アワせて掛ける」カレイ釣りの楽しみが倍増します。富澤さんは幻舟カレイ2‐180にDAIWAの電動タナコン300。深場が主体なので、小型電動の選択も良いですね。
釣り場の水深は80mくらい。着底して糸フケを取って小突き始めると、右舷ミヨシの富澤さんが手早くアワせて巻き上げ始めました。「エッ!もうキタの?」抜き上げたのは20cmほどのヒガレイ(ムシガレイ)。写真を撮っていると、私の竿先もクンクンと引き込まれている!私にも同サイズのヒガレイで、スタートから連発。富澤さんはしばし入れ食い状態です。
こんな深場のカレイ釣りは初めてという丹野さん、和地さんは、深場から伝わる魚信にアワせるタイミングが取れず、何度も掛け損なっていましたが、アドバイスを聞いて徐々にパターンが掴めたようで、ヒガレイを連続で取り込みます。
船長の確かな腕と魚影の濃さは健在だった!
木川船長のポイントの見極め、移動のタイミングは的確で、47mラインまで流し直しを繰り返して攻めていきます。43mラインも攻めてみましたが、魚信少なく、早々に見切りました。
「水温8.7℃、47mまで釣れる。今はここが境目だな」と木川船長。イワシの反応を探して、反応に当てていったとのこと。魚信の有無と糸の角度を見て、流し探っていく操船は絶妙です。ベイトに着いているヒガレイの活性は高く、底を切って仕掛けを潮に乗せるようにフワッと誘うと、ガツンと激しく当たってきます。
富澤さんはヒガレイのダブルを連発。30cmUPのナメタも上げました。私も微妙にもたれる魚信にアワセを入れると、ズシンと竿が止められます。重く水を抱く強い引き込みで、タモ取りしたのは40cmと23cmのマコガレイのダブル。潮上がりして流しかえると、和地さんにも尺サイズのナメタ。「初めてのナメタです!」と嬉しそう。私も続いてナメタをゲットです。釣り始めて2時間ほどで全員がツ抜けしました。
「試し釣りは成功ですね!」と富澤さん。船長も安心の笑顔です。風も弱まってきて、船長の一番の狙い目ポイントの魹(トド)ヶ崎灯台前に移動していきます。本州最東端の灯台は、大津波を受けても灯を燈し続けて、役割を果たしたそうです。
重茂といったら…最後はやっぱりトドヶ崎へ
魹ヶ崎灯台まで、姉吉から延々と歩いてアイナメを釣りに行ったことがあります。あの絶壁からの投げ釣りは豪快だったなぁ~と思い返して小突いていると、コツンという魚信。上に誘い上げていくとススッと食い上がってきます。竿を立てて追いアワセをすると、ググッと強い引き込み。ゆっくり巻き上げ、取り込んだのは37cmのヒガレイ。丹野さんも30cm台後半の大型ヒガレイを次々に釣り上げ、その強い引きに驚いた様子。
好調に釣る和地さんに、うねるような強力な引き込み。これは大物ナメタでは!? しかし、上がってきたのはナガヅカとヒガレイのダブルでした。あれのナメタのような引きは、一瞬ときめくんだよなぁ…。でも、この時期に産卵に入ってくる深海魚ナガヅカが釣れてきたのは、三陸の海に例年通りの春が来ていることの証明ですね。
なんと和地さんは、ここからナメタを連続で釣り、ナメタは3枚。私も2枚目のナメタを手にし、最後の流しで丹野さんもナメタを釣ったので、ナメタは合計7枚。4人全員ナメタをゲットして、午後4時過ぎに沖上がり。
震災前と変わらぬ釣果にホッとひと安心
船中127枚のカレイ類に、アイナメ、ソイ、マダコ、小型マダラ、ナガヅカ、カジカなど、三陸カレイ釣りの定番ゲストが揃いました。重茂の遊漁再開を、自信をもって薦められる調査結果でした。我々の釣果を見た船長たちも安心していました。
避難所に届ける魚の希望を船長に聞くと、一番はアイナメとのことで、みんなのアイナメを船長に渡します。「配給の魚は缶詰で、新鮮な魚はしばらく食べてなかった。このアイナメは刺身にして、みんなに食べさせるよ」と嬉しそう。
「いつも通りに釣れて良かった。今日の最大の収穫は船長の笑顔が見られたことです」と富澤さん。これで復興への一歩を踏み出しました。皆さんもぜひ、重茂の遊漁船に乗ってみてください。釣趣、食味ともにオススメですよ!
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写真・テキスト/針生秀一
取材協力/さくら丸(重茂港)TEL:090-7796-2826、上州屋盛岡店(盛岡市)、つりえさ倶楽部マリン新港店(仙台市宮城野区)
船釣りを中心に、防波堤や河川の小物釣りなど、なんでもこなすオールラウンダー釣り師。全国各地の釣りと釣り具の知識が豊富で、釣りの生き字引的存在。泉区のロックバーラグ(Rag)オーナー。シマノフィールドモニター