釣ったワラサを最高においしく料理する
今回は「釣った魚を鮮度良く関東に届けて美味しい料理をいただくこと」を目的に塩釜・えびす屋のジギング船に乗船。釣った直後に「神経絞め」をした上で、カンペキに輸送!そのお味はいかに?
宮城のお魚を関東でPRするという作戦
さて、今回は釣れた魚を鮮度良く関東(横浜)に持ち帰り、地元のお店で料理をして頂くという美味しい企画。今回お世話になる塩釜港のえびす屋さんと私の住んでいる横浜の自宅までは約450km。車だと東京を越えて神奈川県なので、東京や埼玉の人はもうちょっと近いことになります。
いつも地方巡業が多ので、地方から魚をどのように送るかがカギ。皆さんに美味しく食べて頂けるかどうかは当地のPRにもなる訳で、実はとても重要なこと。ところが…釣りに一生懸命になってしまうと、釣れた魚の管理がおろそかになりがち。そういう光景を目にすると「もったいない…」と感じる訳ですね。
最近は血抜きの所まではやっている方も多く目にする様になりましたが、時間の管理が難しい。釣れている時に釣りたいという心理と、魚の鮮度保持の板ばさみ。この釣り人に課せられた使命をどう克服するか?そんな感じで、今回は出来る限りのことをやって魚を送り、東北の魚を使ってお店でおいしく食べようと考えたのです。
ターゲットは今年も宮城沖で絶好調のワラサ。さらに一大ブランドになった「金華さば」もと目論んだものの、当日の出船は無く残念。関東でも「金華さば」ブランドは流通していて、良いお値段なのです。当然料理人の人達も知っている訳で「使いたかった…」と残念そうだった。しかし、宮城沖のワラサを「凄い」と言わせるには、全国各地のブランドが流通している関東の料理人に使ってもらわなければ比較にならない。昔、レーサー時代に「宮城米を宮城でPRするのではなく、関東で…」と作戦を練り、あの「ひとめぼれ」の米ブーム。宮城の皆様達との良い想い出が浮かんでくる。
そんな感じで準備。到着時間には当地のお店は閉まっているはずなので、まずは地元のドラッグストアへ。ミネラルウォーターと塩を購入したのです。そして首都高速から東北道へ。経費節減のため東北道岩槻ICで降車し、国道16号から国道4号。時間を見ながら再び高速に乗るパターン。夜中の走行なら全部高速でも東北道は夜間割引の時間帯なので良いんだけれど、帰りが平日日中のときは満額なので、割引に慣れた現在、「その分他に使おう」となる訳です。
10月25日、えびす屋に着きご挨拶。何時も暖かく迎えてくれるので長距離の運転も苦にならない訳だ。この日2隻のルアー船が出船。流石に好調だけあって人気が高い。何時も操船してくれている伊藤栄明さんは今回所要で出られないとのこと。その代わりに最近好結果の出ているメソッドを教えて頂いた。本日の船長は我妻大さん。先日の塩釜ジギングバトルでの優勝船長だ。優しく楽しい船長なので、わからないことが有ったらどんどん質問してください。まがき港に移動。まだ薄暗い午前5時30分、ポイントとなる網地島の沖に向かったのです。
クーラーに冷え冷えの人工海水を用意する
出船から40分。明るくなってきた所で今回の重要なテーマ、鮮度保持の支度を開始。氷水をあらかじめ作っておく。そのために冷えたミネラルウォーターを購入して来た訳です。海水でも氷水は当然作れるけど、まだ水温が高い。18℃近くもある海水なのだから、いくら氷を入れても帰りにはクーラーの水温が上がってしまう。まして大きい氷だと融けだしてようやく冷えてくる場合もあり、それでは今回のテーマにそぐわない。
約1リットルの氷4つを大きめのクーラーに入れて2つを砕き、そこへミネラルウォーターをドボドボ。さらに料理の世界では海水魚は極力真水にふれさせないのがセオリー。海水を再現するために3~5%の塩分濃度に調整する。真水1リットル=1000cc=1000gなので、その3~5%。1リットルに対して30~50gの塩ということ。掛けるミネラルウオーターと氷の分量でバッチリ。塩の袋に何gと書いてあるので、大体の目安でOK。すると…氷に掛かった塩はさらに温度を下げ、氷の人工海水は手を入れると痛い位に冷たい。
大事なのは、この中で半分血抜きをすることだ。生きている間にこの水に入れる。暖かい海水で血抜きし、バケツで死んでからクーラーでは、他のブランドエリアのクオリティを保てない。今回半分は普通の海水で行うが、時間は約2分と決めた。その前に「神経絞め」を行い、活きている時に近い状態で身を保つ。それから通常バケツで血抜き約2分、そして人口海水のキンキンに冷えたクーラーへ入れる事にした。塩にも拘り「塩釜の藻塩」投入と目論んだのだが、料理をしてくれている石井先生に「もったいない」と一蹴され断念。今度「金華さば」の時には「顔晴れ塩釜」で藻塩も製作販売している伊藤英明さんに相談するつもり。とにかく東北の魚、今回は宮城沖のワラサを出来るだけ鮮度良く関東へ運んで料理。これがテーマだ。
一発大物に賭けてみるのもアリだけど…
ポイントの水深は60m前後。使うルアーはメタルジグの80~150g、サバを狙わない状況であれば、120~150gという感じ。タイプは様々だが、ロングタイプを使用するアングラーが多い。
ショートピッチの細かい誘いを宿では推薦している。が…ルアーの性格上、私の様に「古い」部類に入るアングラーは「釣れる」という部分において少し違った見方をする。「はたしてそれが正解なのか?」、釣れるからと全員が同じことをやっていれば答えなど出るワケが無い。同じカラーに同じタイプのジグ。引き方も同じでは参考にならない。
釣り座による潮先、潮下の影響も大きく、ピンポイントの反応を当てた場合、魚群探知機に近い真ん中の釣り座がファーストヒットということもある。元来、ルアーで沢山釣れるというイメージではなく、エサ釣りよりも釣果は少ないが、記憶に残る大型がヒットするという感覚だ。
契約メーカーの商品を使う関係上、重さと長さの違いで使い分けるのだが、ここ数回のこのエリアの釣行で、フォールでのヒットは一度もない。他のエリアでも青物が好調な中、関東はもとより、北海道との比較をしてもワラサの活性は高い。ということは、「最大魚のメソッドは違うのではないのか?」と思えてしまう。大きい魚は頭がいい…「ひょっとしたら10kgオーバーが」と夢見てしまうのだ。「それさえ釣れれば1本でも良い」と…。船宿さんの釣果欄が「1~○○」となってしまうのでそれはダメだけど(笑)。でも今回は、美味しいワラサを関東に…なので、頭を切り替えて慎重にワラサを狙ったのでした。
あの手この手でワラサジギングを満喫!
朝マヅメ、期待のスタート直後は「あれっ?やばいな…」と思う位に船中アタリ無し。「青物」ならではのスイッチが入ると入れ食いモードになるものの、今回は静かなスタート。すると左舷ミヨシでワラサがヒット。ロングジグへのヒット。3kgクラス。
そこから暫くアタリが無かったが、私にヒット。底から15m。ロングジャークからショートに変えて徐々にスピードを上げていった時にヒットした。3kgを無事、我妻船長がネットに収めてくれて、直ぐに神経絞め。海水のバケツに入れて呼吸し、おとなしくなった所で血抜き。約2分後、人工海水の冷えたクーラーへ。するとクーラーの中で血抜きしながら魚は一気にヒレが痙攣。それでも呼吸は続く。まったく暴れること無くクーラーに収まる。このクラスを連続ヒット。
石井さんは、ホウボウをヒットさせた後、2kgクラスのイナダを2点掛け。相当引いていたので「やられた…」と思ったが一安心。すべて同じ処理をしてクーラーに入れる。
数本上げた所で、反応のいいうちにフックのシステムをチェンジ。9/0番まで上げてみる。大型対策で確実に狙うためだったが、ワラサがヒット。上げてフッキングポイントを確認すると、「ダメだ…」ここが難しい。フックを大型にすれば確かに大型対策にはなる。但し、ロッドのパワーが足りずフッキングが甘くなってしまう。というのもフックが大きくなれば軸も太くなり、ハリの懐の奥まで刺さらないのだ。その症状をある程度軽減するために、フッキングパワーが上がる長めのロッドを持参している訳だが、今回はワラサに照準を絞ったタックル。明らかにフッキングパワーが足りない。まして、大型になればこの魚、口も厚くなる。ということで、夢はここまで…。
因みに、硬い竿で強引にファイトすれば、刺さりの良い細軸タイプは開いてしまう。特に水中なら浮力が有るので問題ないが、抜き上げた時には一気にストレスがハリやハリスに当たるワイヤー部に掛かるので注意。逆に、女性などの力が弱い方達には細軸がオススメ。少ない力で刺さってしまえば、強引なファイトも少ないのでフックのダメージも少ない。他のアングラーのバラシを見ているとそれが顕著に出ている場合がある。例えばラインにしてもPE1号を物干し竿に付けて振り上げれば簡単に切れる。ところが、ムーチングアクションの真鯛竿だと切るのは容易ではない。ではフッキングパワーはと言うと…。この様な竿を使ったエサ釣りは「向こう合わせ」が殆ど。重いオモリが沈んでいてそれを引かせる事でアワセになっている訳だ。ルアーのタックルバランスが難しいのは、突き詰めればここにある。ルアーごと移動している訳だから。
そんなこんなで、ヒットが続く。しかし時間が経つにつれ、ヒットに間が空く様になり、ついにはパタッとアタリが止んだ。そこで、更に実験。アピールの問題。写真に写せないので恐縮だが、某地方のハンドメイドジグを使ってみた。太さは鉛筆並み。それでトライ。
当然キャストして底方向のアプローチ。これが連続ヒット。あまりの底でのヒットに「ヒラメか?」と勘違いしてしまったがワラサ。ここにもヒントがあった。先に、フォールで当たらない…と書いたが、みなさんも何かの水中映像でカツオやマグロがイワシ団子に突っ込んで行き捕食しているシーンをご覧になった事があると思う。そのまま捕食もあるが、体当たりして落ちて来た弱ったイワシを素早くパクッ…といくシーン。正にフォールでのバイトだ。
だが、このエリアでのワラサの反応…吐き出した魚を見ると圧倒的にメロウドの様な物が多い。底から10m以内のアタックはこれに起因しているのかもしれないと踏んだわけだ。引き方は、出来るだけ潮を見て遠くにキャスト。底から5m浮いたと思えばフォールの繰り返し。釣れない時間にヒットするのだから面白い。今回は汎用性を重視したタックルだが、専用の食い渋り対策として組んで来ても面白いかもしれない。と色々試している内に石井さんが「そろそろクーラーのキャパが危ない…」と心配している。午前11時に自主的に納竿。でも釣り師の性…小型メタルを落としてみたり、「今度カレイの仕掛けとエサ持って来よう…何かいるだろ」とクーラー満タンの時の対策も考えて楽しんだ。午後12時30分に沖上がり。「今日は一回り小さかったです。数も…」と我妻船長。いやいや十分です。楽しめました。
釣った瞬間の鮮度のまま美味しく頂く!
さて、港に帰って一仕事。この魚を宅配便で送ると、翌日の朝には横浜に着く。えびす屋さんも宅配便と提携しているので便利。クール便で横浜・東戸塚で人気の創作居酒屋「あんたい屋」さんに送った。
残りは氷と塩分の管理をして自分で運ぶ。詰めた時に気が付いた。普通なら冷えたクーラーで硬直し過ぎて硬い身になっているはず。ところが…生きている時の硬さに近いのだ。これは楽しみ。そんな感じで今回は国分町に宿を取り、関係者と一杯。ハイボールの一丁目、二丁目…で順次「仕上がって」行き解散。翌日朝、横浜へ帰還。そして夕方「あんたい屋」さんに行くと…。
店主である飯岡さんに聞くと、「山口さん、どんな料理をしても全く臭みが出ないんです…。凄い」とのこと。さらに天然。無駄な脂が無く、いくらでも食べられる。綺麗な創作料理のオンパレード。お客様にも大好評。あら汁は冷めても全く臭みが出ない素晴らしい味でした。「やっぱりね…」と私。
実は、新潟県のある釣り船に循環器が付いていてそこにフィルターが装着されているのです。内容は良く判らないのですが漁師を兼業していて当地は真鯛のメッカ。市場に行くとその「水」を使ったとブランド化している訳。魚の持ちが違い、艶も違う。そこも実はヒントだったのです。
そして自宅で残りの魚を触ってみると…「おおっ」。全く魚の硬さが変わらない。やった甲斐があった…。硬すぎない。これはそのままの鮮度だったということ。この状態が長く続く訳だ。次回はブランド「金華さば」で是非挑戦したい。
・住所:神奈川県横浜市戸塚区品濃町515-1(JR横須賀線東戸塚駅から徒歩3分)
・TEL:045-821-5963
・営業時間:[月~土]17:30~24:00(夜10時以降入店可)
※「塩竈の藻塩」取扱店
船宿・えびす屋はJR本塩釜駅近く、イオンタウン塩釜すぐ隣の高架脇にある(出船港は塩釜まがき港)
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横浜市在住のライター&フォトグラファー。元2輪レーサーで、「宮城ササニシキレーシングチーム」を結成するなど、宮城や東北にも縁がある。現在は大好きな釣りと魚を求めて各地を旅するのが楽しみ。ヤマシタ・アドバイザリースタッフ、マリア・フィールドスタッフ。ブログShisen
※取材・テキスト/山口 充
※取材協力/えびす屋(宮城・塩釜まがき港)TEL:022-362-2220
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